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尾形月耕の絵で源氏物語五十四帖現代語訳・わかりやすいあらすじを作ってみた。

日本の誇る大古典。紫式部の「源氏物語」。全54帖の絵を明治の浮世絵師・錦絵師、尾形月耕(1859-1920)が描いています。その絵はきらびやかでありながらも端正でみずみずしい。各巻ごとのあらすじとともに、平安王朝絵巻をお楽しみください。

 

0尾形月耕・源氏物語五十四帖・目次:plain

 

 

1 桐壷

1尾形月耕・源氏物語五十四帖・桐壷:plain

主人公、光源氏は帝と桐壷更衣の間に生まれた。桐壷更衣は帝の寵愛を一身に受けるが、身分が低く後ろ盾もない。妬みははなはだしく、心労もあり、源氏が3歳の時に亡くなってしまう。帝の正妻である弘徽殿女御の長男が皇太子に立てられ、後ろ盾のない、しかし才智にあふれた若君を無用の争いから遠ざけるため、帝は桐壷更衣の忘れ形見に「源」の姓を与え、臣下に下らせた。

桐壷更衣を忘れらない帝は、桐壷更衣に生き写しとの評判の先帝の四女、藤壺の宮を迎え入れた。源氏宮中で成長し、「光る君」、藤壺は「輝く日の宮」と並び称され、二人は実の親子のごとく仲睦まじく、とりわけ源氏は藤壺に亡き母の面影を追い求め、慕うのであった。

源氏は12歳になり、元服し、左大臣の娘、4歳年上の葵の上の婿となる。しかし葵の上はかたくなであり、二人の間はぎこちなく、源氏は藤壺の宮への思いを一層募らせる。宮中を訪れても、藤壺の宮の姿は御簾の向こうである。もはや目にすることはできない。

 

2 帚木

2尾形月耕・源氏物語五十四帖・帚木:plain

源氏は中将となる。左大臣の息子の頭中将、左馬頭、藤式部丞とともに宮中に詰めていた雨の夜、各々の女性論を語り始める。(雨夜の品定め)身分の高い女性はお付きの者に囲まれ、おいそれと近づけない。かえってやりとりの感触のはっきりしていて、機微を生身で感じられる、身分の低い女性との恋愛にこそ、醍醐味があるのではないか。
頭中将はっしんみりと、後に源氏が契ることとなる夕顔の思い出話をするのであった。

方違えのために立ち寄った屋敷で、源氏は伊予介の後妻、空蝉の気配を知る。これこそがあの雨夜の品定めに出た、身分高からぬ女。

寝処を抜け出し、空蝉に迫る。空蝉は拒まない。気丈で潔い女性。それが空蝉。

一夜明け、空蝉が忘れられない源氏は、いま一度の逢瀬を懇願する。しかし空蝉は源氏を愛しながらも己の身分と、たとえ源氏を受け入れたとしても、この恋の行く末が案じられ、源氏を拒み、間に立つ空蝉の弟、小君は困り果てるのであった。

 

3 空蝉

3尾形月耕・源氏物語五十四帖・空蝉:plain

空蝉を忘れられない源氏。取り立てて美しいわけではない。ただ、気丈で潔い風情に激しく心惹かれるのだ。つれない仕打ちが恨めしく、恋しさは募るばかり。小君に何とか空蝉にもう一度、引き合わせてくれるよう頼む源氏。

主の留守を見計らい、小君の手引きで館に入り込む源氏。空蝉は義理の娘の軒端荻と碁を打っていた。空蝉のたたずまいに改めて感じ入る。軒端荻も美しい女であり、空蝉とはまた別の、仇な振る舞いに魅力を感じる。

深夜、空蝉は源氏を思い焦がれ、寝付けない。そして暗闇の中、記憶に新しい香りが流れてくる。源氏だ。とっさに逃げる空蝉。知らずに源氏は、空蝉の隣で寝息を立てていた軒端荻と契ってしまう。事が終わり事態に気づくが、なす術はない。

空蝉は小袿を残していった。心を残しながらも小袿を抱き、眠りにつくが恋しさが紛れることはなく、眠れるはずもない。
もう一度小君に頼み、空蝉に歌を送ったが、返事はなかった。

「まるで空蝉のような…。」

 

4 夕顔

4尾形月耕・源氏物語五十四帖・夕顔:plain

源氏は前皇太子の未亡人、六条御息所の元へ足しげく通っていたが、次第に訪れは間遠になりつつあった。

乳母の見舞いの途中、道すがらの花に目を留め、花の名を従者に尋ねたところ、夕顔の花を乗せた扇が届く。花の主は扇に香を焚きしめ、和歌をしたためていた。源氏は大いに興味をそそられ、歌を返し、歌の送り主の素性と人となりを調べさせる。源氏は館を訪れ、高貴とは違うが繊細な女性。頼りなげで男の庇護本能をそそってやまない夕顔のとりことなり、足しげく通い、逢瀬を重ねる。

夏の夜、源氏と夕顔が寝床を共にし。源氏は「なぜ私を差し置いてこんな女と」と恨めし気になげく女の夢を見た。悪夢から目覚めれば、館は不気味な空気に満ち、伴の者も怯えている。見れば夕顔はなきがらとなり、枕辺には先だって夢に見た女が立っていた。

傷心の源氏は病に伏し、空蝉は伊予に下る。源氏と空蝉は歌を読み交わすがもう会うことはない。軒端荻は婿を迎えた。

 

5 若紫

5尾形月耕・源氏物語五十四帖・若紫:plain

未だ病の癒えぬ源氏が加持祈祷に出かけた際、藤壺の宮に面差しの似た美少女(後の紫の上)と尼君に目を留める。少女は藤壺の宮の兄、兵部卿宮の娘であり、母は既に亡く、尼君は祖母である。恋する藤壺の宮と少女が縁続きであることを知り、尼君と尼君の兄に少女を引き取りたいと申し出るが、妻問いには幼すぎると取り合ってもらえない。

葵の上とは相変わらず打ち解けられず、藤壺の宮の宿下がりを聞きつけた源氏はいてもたってもいられず、藤壺の元に向かう。不義の仲となった源氏と藤壺の宮。そして藤壺の宮は不義の子を身籠り、帝の喜びようは例えようもなく、一方、源氏と藤壺の宮は己の罪の意識にさいなまれ、怯えるのであった。

件の尼君は亡くなり、源氏は兵部卿宮が紫の上を引き取ることを知る。正妻のいる館での生活に、紫の上の周りの者は不安げであり、姫君の行く末は心もとない。源氏は一足先に紫の上のもとに赴き、半ば強引に自分の館に連れ帰る。

 

6 末摘花

6尾形月耕・源氏物語五十四帖・末摘花:plain

大輔の命婦という女房から、「末摘花」という深窓の高貴な姫君の話をもちかけられ、源氏は興味をそそられる。琴の名手とのことであり、大輔の命婦の手引きで物陰から末摘花の琴の音を聞こうとするのだが、遠くから耳をそばだてるのだが肝心の琴音は短い。

頭中将も末摘花が気になるらしく手紙を送るが返事は来ない。源氏の手紙にも返事はない。

二人は末摘花の館で初めて会いまみえ、一夜をともにするのだが、末摘花は一言に言葉も発しない。歌を送るが返事の歌にも手ごたえがなく、紫の上と一緒にいるのに時間を取られ、末摘花の館にはついつい足が遠のいてしまう。

久しぶりに末摘花の館を訪れ、明るいところで初めてその姿を見たところ鼻が垂れて赤く、良い品だが着古した、しかも時代遅れの黒テンの毛皮をまとった醜女であった。ここまで醜いと、通う通わないは別として、かえって末摘花の身が案じられ、源氏はさまざまな品を末摘花の館に贈り届けるのだった。

 

7 紅葉賀

7尾形月耕・源氏物語五十四帖・紅葉賀:plain

一の院の50歳の祝いの席で、源氏と頭中将は舞を披露することとなった。宴に先立ち、出産真近の藤壺の宮の慰みも兼ね、桐壷帝と御簾ごしの藤壷の宮の前で2人は青海波を舞う。2人の貴公子の美しさは例えようがなく、観客からはため息が漏れる。源氏は自分の胸の内をしたため、藤壺の宮に手紙を送り、藤壺の宮もさすがに捨て置くこともできず文を返す。

藤壺の宮に男の子が生まれた。源氏に生き写しであり、桐壷帝の喜びもひとしおであり、この子を皇太子とするべく、母の藤壺の宮を中宮へと引き上げる。源氏も藤壺中宮も、不義の子が皇帝の座に上り詰めようとし、また桐壷帝が真実を知る由もない姿におののくしか術はない。

源氏は正三位を経て宰相の座についた。

葵の上にも紫の上のことは当然耳に入っており、左大臣家側は面白くないが、表には出さず、源氏の訪れの際は丁重にもてなすのであった。
紫の上はすくすくと成長し、まだまだ子どもじみた振る舞いも愛らしく、源氏とは親子か兄妹かと見まごうほどに仲睦まじい。

 

8 花宴

8尾形月耕・源氏物語五十四帖・花宴:plain

桐壷帝が花見の宴を開き、宴の後、源氏が宮中を歩いていたところ、女性が「朧月夜に似るものぞなき」と古歌を詠みながら歩いてくる。源氏はすかさず歌を返しす。女は源氏と知るや拒みこそしなかったものの、仔細ありげで名乗ろうとしない。やむなく扇を交換し、別れざるを得ない。

女は源氏を好ましく思わない弘徽殿女御の妹、ほどなく皇太子に嫁ぐ女性であった。右大臣側にはもともと敵対する仲であるし、ましてや兄に嫁ぎ、皇后となるやもしれぬ女性とあっては、のちのちの面倒の種とならねばよいのだが、と源氏の胸に不安がよぎる。朧月夜もまた、入内を控えた身でありながら源氏との夜が忘れられない。

時は流れ、右大臣邸で藤の花の宴が開かれた。朧月夜に会えるやもしれぬ、と酔いつぶれたふりをして宴を中座し、「扇を取られてしまった、憂き目にあった」と声に出してみたところ、女も気配がする。歌を贈れば、歌が返る。沸き立つ思いで几帳ごしに握った手は、紛れもなく朧月夜のものであった。

 

9 葵

9尾形月耕・源氏物語五十四帖・葵:plain

桐壷帝は朱雀帝に位を譲り、源氏と藤壺中宮の間に生まれた男の子が皇太子に立つ。
葵の上は懐妊し、気晴らしに牛車に乗り、源氏が登場する葵祭りを身に出かけた。車を止める場所がなく他の車を押しのけようとするのだが、その牛車の主はは六条御息所。現場で双方が言い争いと乱闘となり、六条御息所の牛車は壊れてしまう。また白日に自分の姿をさらしたことで御息所のプライドはいたく傷つく。

六条御息所の物憂みはなおさめやらず。一方身重の葵の上は物の怪にとりつかれ、苦しんでいた。加持祈祷を重ねるが結果ははかばかしくない。世間は六条御息所が葵の上を怨みにしているとの専らの評判であり、六条御息所は自分の感情をどうすることもできず、また魂は己の姿から抜け出し、葵の上を責め苛んでいることを自覚しているのだった。葵の上は男の子(後の夕霧)を産むが、ほどなく息を引き取る。源氏は枕辺に立つ六条御息所の生霊を確かに見た。

正妻を亡くした源氏が次の正妻に選んだのは、紫の上であった。

 

10 賢木

10尾形月耕・源氏物語五十四帖・賢木:plain

葵の上亡きあと、源氏の正妻は六条御息所、と世間は取沙汰したが、御息所は源氏との別れを予感し、斎宮になる娘とともに伊勢に下る。去り際、源氏は、御息所を訪れ、お互いの胸には万感迫るものがあった。

桐壷院は病癒えず源氏と源氏の子である皇太子を案じながら崩御。朧月夜は朱雀帝の元に入内し、寵愛も厚いにもかかわらず、源氏との逢瀬は続いていた。朱雀帝も二人の仲を知りながらも、咎めだてはしない。

藤壺中宮は未亡人となり、源氏は藤壺中宮の元を訪れ、まだ愛している、と自分の気持ちを伝えるが、藤壺は皇太子の身を案じ、万が一にでも真実が白日の元にさらされてしまっては我が子や源氏の身の破滅。愛する者を守り、自分の罪を償うために出家する。

宮中では左大臣派の力が弱まり、右大臣派が勢力を伸ばしていた。なおも朧月夜との密会は続いており、ついに当の右大臣その人に密会の現場を押さえられる。弘徽殿の女御はこれを好機と、源氏の失脚を図る。

 

11 花散里

11尾形月耕・源氏物語五十四帖・花散里:plain

宮中の政争は激しさをまし、源氏の左大臣側は旗色が悪い。重苦しい毎日の中、昔はたびたびは枕を交わしたものの、いつの間にか間遠になってしまっていた女人が思い出される源氏。

前桐壷帝の寵愛を受けた麗景殿女御の妹、花散里を訪ねることにした。昔、通ったものの、ついつい足が遠のいていた。道すがら、かつて訪ねた女性の家があり、よもや、と惟光を使いに差し向けたところ、色よい返事はもらえなかった。縁が切れてかなりの年月がたち、心変わりを切なく思っていたのであろう。

麗景殿女御を訪ねたところ、長い不義理などなかったかのように迎えられ、温かいもてなしを受け、思い出話に花が咲くのであった。花散里も恨み言など言葉にも態度にも表さず、ただただ今目の前にいる源氏の訪問を嬉しく思っている様子に、いとおしさもひとしおである。

先の女人のすげない仕打ちと比べ、より一層、花散里の人柄の謙虚さ、温かさ、優しさに感じ入るのであった。

 

12 須磨

12尾形月耕・源氏物語五十四帖・須磨:plain

ますます源氏の宮中での地位は危うく、先手を取り、源氏は須磨への隠遁を決意する。

夕霧、頭中将、花散里、藤壷中宮改め入道の宮。桐壷院の墓に詣で、紫の上を屋敷に残し、紫の上にはどんなことがあってもまた一緒に暮らす日が来ると言い含め、旅立つ源氏。

須磨はうら寂しい場所だが、侍従の良清の心遣いもあって、風情ある暮らしと言えなくもない。人恋しさもあり、方々に文をやり、人々の近況を訊ねるのであった。

朱雀帝は父の遺言に添えず、源氏を窮地に追いやってしまったことを苦悩するが、弱気な人柄で、なす術はない。紫の上は館をしっかり守っている。

都から宰相の中将(頭中将)が来てくれた。自分に会うことで政治上、まずい立場に追い込まれるやもしれぬことは百も承知の上なのに、気にも留めない。相まみえ、昔の思い出と今の立場を見やり、二人は涙にくれてしまう。

須磨で源氏は不吉な夢を見る。龍王が、「なぜおまえは海中へ来ないのか」と源氏を誘う夢である。

 

13 明石

13尾形月耕・源氏物語五十四帖・明石:plain

須磨の館は暴風雨で壊れてしまう。すると小舟が現れ、住吉の神から船を出すよう仰せつかったとのこと、源氏は明石の明石入道の館に移り住むことになる。

明石入道には娘がおり、しきりに源氏に水を向ける。娘も垣間見る源氏に一目でとりことなったものの、自分のような者がと、引け目を感じずにはいられない。一方、源氏は気おくれしながらの明石の上とのやり取りには鄙の土地には似合わぬ上品で気高く、嗜み深さを感じ、惹かれていく。ついに源氏は明石の上を目の当たりにし、二人は契り、明石の上は懐妊する。

桐壷院の御意向か、朱雀帝・右大臣・弘徽殿大后は凶事に襲われ、朱雀帝は源氏を都に呼び戻すことを命じる。位は権大納言を賜った。

都への帰還はすなわち明石の上との別れであり、身重の明石の上を残し、紫の上の待つ館へと戻る。紫の上はますます美しく、明石の上のことを包み隠さず打ち明けても、きつくはとがめず。まずはめでたい。

 

14 澪標

14尾形月耕・源氏物語五十四帖・澪標:plain

源氏は桐壷院の法要を盛大に行い、朱雀帝は譲位を決意する。迷いはないがただ朧月夜の身の上を案じる帝。朧月夜は今までの自分の振る舞いを悔い改めずにいられない。
皇太子は元服する。まさに源氏に生き映しであり、入道の宮は改めて罪の意識にさいなまれる。朱雀帝は帝の位を退き、皇太子は冷泉帝として即位し、源氏は内大臣、左大臣は太政大臣、宰相の中将(頭中将)は権中納言となった。

明石の上は女の子を産んだ。源氏は乳母をつかわし、盛大な贈り物を届けた。乳母は明石の上の人柄と赤子の美しさに魅了される。

源氏が住吉大社に詣でた際、偶然明石の上が源氏の行列に出くわす。葵の上との間の子、夕霧の颯爽たる姿に、我とわが娘との身分の違いを痛感する明石の上。後にこれを知った源氏は歌を贈る。

伊勢から六条御息所と秋好斎宮が戻ってきていた。自らの死期を悟った御息所は出家し、娘の行く末を源氏に託して世を去った。秋好斎宮は源氏の養女となり、冷泉帝の元へ入内する。

 

15 蓬生

15尾形月耕・源氏物語五十四帖・蓬生:plain

源氏が須磨に隠遁している間、かつて縁があり、源氏が生活に何くれとなく面倒をみていた女性の生活は、悲惨なものとなる。
とりわけ悲惨なのは末摘花である。女房たちは次々と出て行ってしまい、庭は荒れ放題、家財道具を売ってはと女房が注進しても、父の形見は手放せないと頑なである。

源氏は都に戻り、昔をしのぐ栄耀栄華ぶりであるが、多忙を極め、末摘花を思い出すこともない。末摘花の叔母は、かつて末摘花の母に受領の妻にまで成り果てたと嘲られた過去から、末摘花に冷たい言葉を浴びせ続ける。しかし末摘花は一途に源氏を信じ、待ち続ける。

ようやく末摘花の館を訪れ、庭はキツネの住処となり、牛が行き交い、人の気配はない。源氏は前にも増しての館の荒れ果てた様子に驚く。さらに驚いたことには、末摘花は源氏を待ち続けていた。源氏はその愚直さと一途さに心動かされ、再び援助の手を差し伸べるとともに後々、自分の館の一角に住まわせることにした。

 

16 関屋

16尾形月耕・源氏物語五十四帖・関屋:plain

伊予の介は国替えで常陸の介となり、妻の空蝉とともに常陸国を治めている。京に戻る道すがら、二人は逢坂の関で源氏の石山寺参詣の行列とすれ違う。源氏の権勢は今や絶頂である。空蝉も須磨への隠遁は聞き及んでおり、源氏を忘れてはいなかった。車を寄せ、源氏の大行列を見つめる空蝉。源氏は元小君、今は右衛門佐を呼び、空蝉の近居を訊ねる。源氏と空蝉の胸にはありし日と今が去来する。
右衛門佐は源氏が不遇の時に力になれず、常陸国に下ってしまっていたことを悔やみ、詫びる。源氏は右衛門佐に空蝉へ歌を託し、行き来は絶えて久しいが、いつも気にかけていたとの源氏の言葉に、空蝉の心は再び乱れ、もう若くはなく、会うことはかなわないけど、しかしいたたまれず歌を返す空蝉。
空蝉の夫、常陸の介は病を得、亡くなってしまう。親族は初めこそ優しかったものの、やはり未亡人の立場では肩身は狭く、ついに常陸の介の息子の執拗な態度に及び、空蝉は出家してしまう。

 

17 絵合

17尾形月耕・源氏物語五十四帖・絵合:plain

六条御息所の娘、秋好元斎宮は源氏の養女となり、冷泉帝の元に入内し、梅壷女御を呼ばれることとなった。若き日の頭中将、今は権中納言の娘もすでに入内しており、弘徽殿女御と呼ばれている。
冷泉帝は絵が大層お好きで、自らも筆をとられる。梅壷女御の源氏側、弘徽殿女御の権中納言側に分かれ、帝の興味を引くべく高名な絵を集めさせたり絵描きを招いたり。宮中は絵の話でもちきりであり、双方の駆け引きが続く。源氏側は古典的で雅やか。権中納言側は当世風。お互いに綺羅を競い、やがて二手に分かれて絵合の儀が開かれる運びとなった。

当日は今をときめく人々が向かい合い、お互いの絵を見せ合い、絵についての論争が続く。いずれも甲乙つけがたい。最後の1枚は、源氏が須磨に隠遁していた時に書いたもので、不遇な時期の源氏の心を思いやり、参列した人々はみな涙を流し、この勝負は源氏側の勝利となり、この絵合合戦は、永く宮中の人々の記憶に残り、語り草となった。

 

18 松風

18尾形月耕・源氏物語五十四帖・松風:plain

二条院の東の院が落成し、西の棟には花散里が入る。明石の上を都に迎え入れたい。源氏はしきりに明石の上に文を送るが、明石の上は自分のような田舎者が都の姫と立ち混じっては引け目になるばかり。とはいえ、姫の将来を思えばこの先ずっとの明石住まいでは展望は開けまい…となかなか決心がつかない。
娘の物思いをよそに、明石の上の父、明石入道は大堰川に屋敷を建てる。源氏は喜び、さらに明石の上の上洛を促すのだった。ついに明石の上、明石の上の母君、幼い姫は屋敷に移り住む。ほどなく源氏は明石の上との3年ぶりの再会を果たす。姫は大層愛らしく、源氏は一緒に暮らしたいとの思いを一層強くする。

姫君を身分の高い紫の上の養女として育てた方がゆくゆくは姫のためになる。紫の上に姫君を育ててほしい。ともちかける。子をなさない紫の上は一抹のわだかまりはあるものの、この申し出に有頂天である。

 

19 薄雲

19尾形月耕・源氏物語五十四帖・薄雲:plain

姫君の将来を思えばこれが最善、と娘を手放す明石の上。娘を失った悲しみと、源氏の訪れが間遠になるのではとの恐れ。
別れの日、明石の上の落胆を目の当たりにし、源氏は哀れに感じる。
二条院に連れてこられた姫君は、初めのうちこそ泣いていたが、すぐに紫の上を慕うようになり、紫の上は娘を奪われた明石の上の心情をおもんばかる。源氏の大堰訪問も訪れも前ほどはとがめだてたり嫉妬のふるまいはせず、明石の上も自らの立場をわきまえ、源氏は明石の上の人柄に改めて感じ入る。
冷泉帝の母(藤壺中宮)が病改まり、源氏が見守る中、息を引き取り、源氏は深く嘆き悲しむ。
冷泉帝はふとしたことから己の出生の秘密を知り、これが度重なる天変地異や周りの者の次々続く崩御の原因かと思い至る。思い悩み、源氏に退位と譲位を告げるが、源氏は固辞し続ける。よもや秘密が漏れてしまったのだろうか、と王命婦に問いただすも、藤壺も王命婦も、口外していない。

 

20 朝顔

20尾形月耕・源氏物語五十四帖・朝顔:plain

桐壷院の弟宮、桃園式部卿宮が逝去し、娘の朝顔の君は斎宮を辞し、実家に戻ってきた。かねてからやりとりのあったことから、源氏は早速文を送り、その屋形を訪れる。
手紙のやりとりは長いのに、きちんと返事は返ってくるものの、未だに気を許してくれない。返事の文は趣味といい、内容といい、高貴な女人にふさわしく、かつて愛した藤壺や六条御息所のことなどがしきりに思い出される。

源氏が朝顔の君に言い寄っていることは紫の上の知るところとなる。身分の高い姫君と自分を引き比べ、まさか源氏が自分を捨てることはないと思うが、朝顔の君に寵愛が移ってしまったら、と一人悩む。

源氏はなおも朝顔の君に迫るが、朝顔の君はあなた様が愛された女性はみな、あなたの心変わりに胸を痛め、苦しんでいらっしゃいました。私はその方々と同じ思いをしたくないのです。とはっきり告げる。

傷心の源氏は、紫の上を相手に今までの女性遍歴を語る。すると夢枕に藤壺が現れ、罪深い行いはするなと源氏をいさめるのだった。

 

21 少女

21尾形月耕・源氏物語五十四帖・少女:plain

葵の上の忘れ形見でもある夕霧が元服する。六位を賜り、殊の外低い位に当人も周囲も驚くが、源氏の学問に励み、自らの力で位を上げるべきと夕霧をさとす。夕霧はこれを受け入れ、生まれ育った大宮の家を出、二条院に移ることになる。
内大臣(頭中将)には弘徽殿女御のほか、雲居の雁という娘がいた。夕霧とは幼いころから一緒に育った仲ではあるし、二人は互いに淡い恋心を抱きあうが、娘を掌中の珠とし、また今後の手駒としたい内大臣は、これを知って激怒。雲居の雁は内大臣(頭中将)の館に半ば強引に連れて行く。もう会えない。二人は、さめざめと泣く。

源氏の邸宅となる六条院が完成する。辰巳は源氏と紫の上の住む春の宮。 丑寅は花散里と夕霧の住む夏の宮。未申は秋好中宮の秋の宮。戌亥は明石の上の住む冬の宮。

刻苦勉励の甲斐あって夕霧は優秀な成績を修め、従五位に昇進する。

秋好中宮が宿下がりした際、秋を愛でる秋好中宮と、春を好む紫の上は互いに趣向をこらし、歌を詠み合う。

 

22 玉鬘

22尾形月耕・源氏物語五十四帖・玉鬘:plain

源氏は、未だ亡き夕顔を折節に思い出し、行方知れずの娘のことを気にかけていた。夕顔の娘、玉鬘は乳母と乳母の夫とともに筑紫国に下り、成長していた。玉鬘の美貌を聞きつけ、強引な求婚と婚礼から逃れ、玉鬘とその一行は都へ向かう。親子の名乗りの祈願を長谷寺に向かう途中、夕顔の侍女、右近と偶然出会い、奇跡の再会を果たす。乳母は右近に内大臣(頭中将)への口添えを頼むが、右近は源氏に玉鬘のことを報告し、早速源氏は玉蔓を六条院に引き取り、花散里が養母役を務めることになる。

年末。源氏が女人に贈った衣装は、
紫の上には淡い赤紫の地に紅梅模様。
明石の姫君にはは表は白、裏地は赤。
花散里には薄藍色と少しの紅。
玉鬘には紅地に山吹の花。末摘花には柳と唐草模様。
明石の上には白と紫の地に花鳥柄。
出家した空蝉には濃い鼠色。

紫の上は、源氏が明石の上に贈る衣装の趣味のよさに息を呑み、明石の上その人への思いを巡らせるのであった。

 

23 初音

23尾形月耕・源氏物語五十四帖・初音:plain

新春、源氏はまず紫の上と新春を祝い、続いて明石の姫の歯固めの祝がある。その後源氏は女人の元を順に訪れる。

花散里は容色の衰えは隠せないが、人となりは変わらず穏やかでくつろげる存在であった。玉鬘は山吹色の衣装が光り輝き、まさしく今が盛りの美しさ。明石の上は留守かと思われたが程なくもどり、彼女の気品と美しさに惹かれつい夜明け前まで、明石の上のもとで時を過ごし、紫の上は心穏やかでない。

六条院には引きも切らず年賀の客が訪れ、一段落すると源氏は二条院に出向く。東の院には末摘花、西の院には空蝉が住んでいる。末摘花は唯一の取り柄の髪も白髪交じりとなってしまった。空蝉の住みなしている様子は風流であった。

真冬の明け方、月が出、薄雪の積もる六条院に貴公子たちが訪れ、歌を歌い、舞を舞う。各夫人の見物席からは御簾ごしに色とりどりの女房の袖口が出ていて、こちらもいずれ劣らぬ見ものであった。源氏も感じ入り、歌を口ずさむ。

 

24 胡蝶

24尾形月耕・源氏物語五十四帖・胡蝶:plain

春、六条院では船を池に浮かべ、女人たちは外に出て船に乗り、花が咲き鳥はさえずり、音楽が奏でられ、典雅な春の催しが開かれる。ちょうど秋好中宮が宿下がりしており、中宮の女房たちを招いて宴はたけなわ。招かれた貴公子たちは玉鬘の美貌が気になって気もそぞろである。

玉鬘の元には恋文が次々届く。源氏は文を選び、玉鬘に返事を書かせる。源氏の異母弟の蛍兵部卿宮、玉鬘の異母弟の柏木、髭黒の右大将…。源氏としては、玉鬘をより良い所に縁付かせ、後ろ盾を整えてから内大臣と引き合わせた方が、内大臣一族内での立場は有利であろう、とみている。

もっとも、当の源氏も、玉鬘の親代わりではあるが、その美貌にはあらがえない。足しげく玉鬘の元に通い、ついに、恋をささやく。
玉鬘本人は、源氏の行き過ぎた振る舞いは辛いが六条院に置いてもらっている手前、表には出せない。父たる内大臣との親子の名乗りはいったいいつに、と心乱れるのであった。

 

25 蛍

25尾形月耕・源氏物語五十四帖・蛍:plain

源氏から思いを打ち明けられた玉鬘は、自分の身の上が情けなく、悔しい。

蛍兵部卿宮は相変わらず熱心に文をよこす。源氏は一計を案じ、玉鬘に色良い返事を書かせ、蛍兵部卿宮は勇んで六条院に出向く。夜、突然蛍の群れがが玉鬘と蛍兵部卿宮の間に現れ、一瞬、蛍の光に照らされた玉鬘を垣間見た
蛍兵部卿宮は、より一層玉鬘への思いを募らせる。源氏の振る舞いに玉鬘は当惑するばかり。長雨が続き、女人は物語などを読み、無聊をなぐさめている。源氏はそれを見て「まったく、女のひとというものは」と物語論をひとくさり話続ける。

夕霧と明石の姫君は仲が良い。夕霧は、明石の姫君と一緒にいるにつれ、雲居の雁のことが思い出される。立身出世しなければ。と気持ちを新たにする。

内大臣(元頭中将)には男子は多いが娘が少なく、内大臣としては手駒が欲しい。占ってみたところ、
「(夕顔との間にできた娘は)他の家で養女になっている」と出、手のものに娘探しを命じた。

 

26 常夏

26尾形月耕・源氏物語五十四帖・常夏:plain

夏、六条院に源氏と公卿たちが集う。宴の途中、源氏は玉鬘を呼び寄せ、貴公子たちの姿を見せる。内大臣の意向で夕霧と雲居の雁の仲は相変わらず立ちいかない。それを聞いた玉鬘は、親子の名乗りの雲行きを嘆かずにはいられない。源氏はいけないとは知りつつも、玉鬘への思いを断ち切れずにいる。

内大臣(元頭中将)は最近、自分の娘と名乗る近江の君を引き取った。しかし立ち居振る舞いに眉をひそめることばかりで、聞けば源氏は養女を迎えたらしい、自分との差はなんなのだ、と頭を痛めているらしい。雲居の雁とのことも、源氏が頭を下げて頼んでくるのであればまたこちらも考えないではないのだが…。

内大臣は雲居の雁を訪ね、娘の将来を案じていることを言って聞かせる。雲居の雁にしてみれば父に気兼ねして、生まれ育った大宮の祖父母のご機嫌伺いもままならない。

近江の君を宿下がりしている弘徽殿女御に預けたところ、案の定あきれる立ち居振る舞いばかりで大騒ぎ。

 

27 篝火

27尾形月耕・源氏物語五十四帖・篝火:plain

近江の君のよろしくない噂が引き続き源氏たちの耳に入ってくる。源氏は深く考えずに近江の君の言葉を鵜呑みにして近くに置くのも不用意であるし、お座に出せない姫君とわかった途端に手の平を返す内大臣の振る舞いにも問題があるのでは、と考える。

一方、玉鬘は、あるいは自分も同じようになってしまっていたのかもしれない。と源氏に引き取られた幸運をじみじみ感じる。源氏の困った振る舞いは相変わらず続いているが一線を越えることはなく、玉鬘の身は今のところ安泰である。

源氏はまたも玉鬘を訪ね、長居した後、夜遅くに戻っていく。庭の篝火にてらわれる玉鬘の美しさに改めて見とれ、焔をいま一度燃え上がらせ、気持ちを託した歌を玉鬘に贈る。玉鬘は返歌で源氏の告白から身をかわす。

秋、東の棟から琴やら笛の音が流れてくる。源氏も加わり、源氏は琴、夕霧は横笛を奏でる。柏木も琴の名手である。恋する玉鬘が聞いているのかもしれない。琴の音はどことなくぎこちない。

 

28 野分

28尾形月耕・源氏物語五十四帖・野分:plain

秋、六条院では秋の花が盛りに咲き競っている。秋好中宮が宿下がりしている折、六条院を台風が見舞い、これでは花が散ってしまう、と皆は気が気でない。

偶然、夕霧は台風に気を取られ御簾から出た紫の上の姿を見、紫の上の美しさと気高さに激しく心を揺さぶられ、なるほど、これだけの女性だからこそ、父は決して紫の上を他の男の目に触れさせないのだと感じ入る。
雨風はなお強く、夕霧は心配になり、源氏の許可を得て三条の大宮邸へ向かう。まだ紫の上の面影が脳裏に焼き付いて離れない。

戻った夕霧は、花散里、秋好中宮を見舞う。夕霧の様子に不審を抱いた源氏は、紫の上に姿を見られたのでは、と問いただすが、紫の上は、自分の姿を盗み見られたことに気付いていない。

源氏は夕霧を連れ、秋好中宮、明石の上、玉鬘を見舞う。夕霧は父の玉鬘への態度に違和感を抱き、紫の上と玉鬘の美貌とたたずまいに思いを巡らす。

大宮邸を内大臣が見舞う。大宮は、ここぞとばかり、雲居の雁に会いたい、と内大臣にかきくどく。

 

29 行幸

29尾形月耕・源氏物語五十四帖・行幸:plain

冷泉帝の行幸が執り行われ、観衆は押すな押すなの大騒ぎ。行列見物をしていた玉鬘は帝のお姿に心惹かれる。
玉鬘の裳着が近づき、大宮の具合ははかばかしくない。源氏はこれを潮時として大宮と内大臣に玉鬘のいきさつを打ち明け、てっきり夕霧と雲居の雁の縁つなぎだと思い込んでいた大宮と内大臣は、話を聞き喜びは尋常でない。
源氏と内大臣は、今でこそ争い合うこともあるが、昔は行動を共にし、内大臣は源氏が窮地の時にも変わらぬ友情を寄せてくれた。二人は久々に胸を開いて語り合い、思い出は尽きない。

当日、内大臣は玉鬘の腰紐を結ぶ役を相勤め、親娘の対面が実現する。美しすぎる娘、立派で華麗な成人の儀式。内大臣は源氏の真意をはかりかね、嬉しいながらも複雑な心境である。蛍兵部卿宮は改めて玉鬘に求婚し、夕霧は玉鬘が血続きでないことを知って、なんだ、それでは自分が求婚すればよかった、などと思う。

玉鬘の裳着の話を聞いた近江の君はあからさまに文句を言いふらし、周りは呆れるを通り越して滑稽で、おかしくてたまらない。

 

30 藤袴

30尾形月耕・源氏物語五十四帖・藤袴:plain

冷泉帝は玉鬘に入内を促す。このまま源氏の館で暮らすのは気が引けるし、内大臣は今までのいきさつがあるのだからと玉鬘を引き取る素振りはない。そして自分に宮仕えが務まるのか。玉鬘は思い悩む。
内大臣の母大宮が亡くなり、夕霧は玉鬘を訪ね、御簾ごしに藤袴を差し入れ自分の気持ちを打ち明けるのだが、玉鬘は冷たい。
夕霧は玉鬘の仕打ちを受け、源氏に玉鬘への不審な態度を問い正す。
身分からいけば入内か蛍兵部卿宮、髭黒。ただし髭黒の正妻は紫の上の姉にあたり、正妻は嫉妬深く、この際正妻と離縁して玉鬘を正妻に据えたい。しかし源氏の側としては気が進まない。

玉鬘を手放す気などないのでは、との夕霧の問いを受け流す源氏だが、自分の心境を読まれていたことに焦りを覚える。

柏木は玉鬘との血の繋がりを知った後は諦めるよりない。
玉鬘の入内が決まり、残念がる文が次々届く。夕霧は口実を作っては玉鬘を訪れ、蛍兵部卿宮は玉鬘から届いた手紙に、自分の気持ちに気づいていたのだと悲しい中にも嬉しさを感じた。

 

31 真木柱

31尾形月耕・源氏物語五十四帖・真木柱:plain

思い余った髭黒は、女房に手引きさせ、玉鬘を我が物としてしまう。冷泉帝も源氏も蛍兵部卿宮も落胆この上ないが、あとの祭りである。
髭黒は念願かなって玉鬘を我が家に迎え入れるべく、準備を進めるが、髭黒の正妻はもともとヒステリックな性格であり、物の怪がとりついたがごとく、手に負えない。髭黒はほとほと手を焼く。
式部卿宮は娘と孫たちを自分の館に連れて行く。父を慕う娘の真木柱は行きたくない、別れの挨拶だけでもと泣きじゃくり、家のお気に入りの場所の柱の割れ目に歌詠んだ紙を差し込み、泣き泣き家を出て行った。
たっての願いで玉鬘は宮中に召し出されるが、髭黒は自分の妻が気が気でなく、あっという間に玉鬘を連れ帰る。何の儀式もなしの退出は非常識極まりないのだが…。冷泉帝は大層残念がられ、苦笑するしかない。

髭黒の息子は館に戻っていた。真木柱は自分が男の子なら家にいられたのにと悔しいのだった。

ほどなく髭黒と玉鬘の間に男の子が生まれる。内大臣は孫の誕生を大いに喜ぶ。

 

32 梅枝

32尾形月耕・源氏物語五十四帖・梅枝:plain

皇太子の元服と明石の姫君の裳着が近づき、姫君の入内を控え、持ち物にも贅をつくし、源氏をはじめ六条院の人々は香を調香に余念がない。訪ねてきた蛍兵部卿宮が審判を仰せつかる。
朝顔が調合した「黒方」は心憎い静かな趣。源氏の「侍従」は艶で優美。紫の上の「梅花」は華やかで若々しく、加え目新しく才が感じられる。花散里の「荷葉」は人柄そのままで控え目で懐かしい。明石の上の「薫衣」は優美な香が芳醇である…。

栄えある裳着の式の大役、腰結は秋好中宮が務める。実の母である明石の上が席に加わることができない。源氏は明石の上の心をおもんばかるのであった。

一方、夕霧と雲居の雁との間には進展がない。雲居の雁にはまだ縁談がなく、独り身である。夕霧も雲居の雁を忘れかね、他の女にも目を向けろとの源氏の言葉も聞こえないかのよう。内大臣から受けた仕打ちがまだ忘れられず、雲居の雁を迎えに行くのは立身出世を果たしてから、と思い詰めている様子である。

 

33 藤裏葉

33尾形月耕・源氏物語五十四帖・藤裏葉:plain

夕霧に縁談が持ち上がったと聞きつけた内大臣は、もはやこれまでと折れ、夕霧を招き、自ら雲居の雁を夕霧に託す。

明石の姫君の入内にあたり、明石の上がともに宮中に上がることとなり、明石の上の喜びはひとしおであった。明石の上は自分が姫の引け目となりはしないかと心苦しく、紫の上は、自分も子を持ちたかったと思わずにはいられない。
出仕後、紫の上と明石の上は初めて顔を合わせる。紫の上は明石の上をこれほどの女性であれば、源氏が心惹かれるのは無理もない、とため息が漏れ、明石の上は紫の上の光り輝く貴婦人ぶりに驚き、このような女性だからこそ源氏の第一夫人として源氏の愛情を集めているのだと心から思えた。

40歳を迎える源氏は准太上天皇、内大臣は太政大臣、夕霧は中納言に任ぜられた。夕霧と雲居の雁は亡き大宮の三条邸を改築して移り住む。

10月。六条院に冷泉帝が行幸し、朱雀院、太政大臣、中納言、源氏が一堂に会する。栄耀栄華を極めた麗しき方々、前世でよほどの徳をお積みになったのであろう。

 

34 若菜 上

34尾形月耕・源氏物語五十四帖・若菜上:plain

朱雀院の病状は芳しくなく、異母妹の女三宮の行く末だけが気がかりである。源氏以外に任せる男はいない、との院の懇願に、源氏は子どもじみた姫君を正妻として迎え入れる羽目になる。

玉鬘は髭黒の連れ子と自分の子に囲まれて穏やかな日々を過ごしている。正月に六条院を訪れ、玉鬘は源氏に若菜を献じる。

朱雀院は出家し、源氏は昔馴染みの朧月夜の元に通う。女三宮といい、朧月夜といい、紫の上は己の立場の危うさを改めて感じる。

明石の姫君こと明石女御(あかしのにょうご)は男の子を産む。紫の上は喜び、明石の上は出過ぎることなく、思慮深く、賞賛の的であった。

柏木はかねてから女三宮に恋焦がれていた。源氏に嫁したものの、源氏の女三宮への態度はぎこちない。幸せとは言えぬ結婚生活の噂が柏木を苦しめる。

六条院で蹴鞠の最中、猫が騒ぎ、不用意にも女三宮の部屋の御簾があがり、女三宮の姿がはっきり見える。柏木はたまらず女三宮に文を送るが、相手にされるはずはない。

 

34 若菜 下

34尾形月耕・源氏物語五十四帖・若菜下:plain

冷泉帝は譲位し、明石女御の子は皇太子となる。夕霧は大納言に、柏木は中納言となった。
朱雀院の後ろ盾のある女三宮を粗略には扱えず、自然と紫の上と過ごす時間は短くなっていく。病がちとなり、わが身のはかなさを思い知った紫の上は出家したいと源氏に懇願するが、無論源氏は許さない。

柏木は女三宮をどうしても忘れられず、手引きを頼み、思いを遂げる。女三宮は隙だらけの自分の落ち度だ、源氏に顔向けできないと泣くしかない。
ついに女三宮は懐妊してしまう。柏木の送った手紙が、またも女三宮の不注意で源氏の目に触れ、源氏は真相を知る。

これこそ因果応報。若き日の己の罪。目の前の二人を許す気にはなれない。あるいは、朱雀院も源氏と藤壺の仲を、知っていたのだろうか。

朧月夜は遂に出家。こんな嫉妬深い女人もいたのだよとの昔語に、なおも六条御息所の亡霊が現れ、紫の上に憑りつく。

朱雀院の50才の祝の席、源氏の視線を浴び、柏木は驚愕のあまり病に倒れる。

 

35 柏木

35尾形月耕・源氏物語五十四帖・柏木:plain

柏木は女三宮に文を送るが三宮は「誰のせいでこんなことになったのか」と冷たい。柏木は恋の残酷な幕切れに泣くしかない。

女三宮は男子を産み、薫と名付けられる。世間はおめでたいと言いそやすが、源氏は赤子をうとみ、女三宮は朱雀院にこんな生活は続けられない、今すぐ尼になりたいと泣いて訴え、院はこの結婚の失敗を悟り、源氏は改めて女三宮に哀れを感じる。

加持祈祷を執り行ったところ、六条御息所の霊が「追い出したとばかり思っている様子が悔しかったからこちらにきたのです」と出て行ったという。

柏木も間もなく息を引き取る。妻の女二宮も女三宮も、悲しみに浸るのであった。柏木は夕霧に源氏へのとりなしと妻の女二宮をよろしくと言い置いていた。
紫の上の出家は決して許さない源氏が、女三宮のそれは態度が違いすぎる。夕霧は不審がり、遺言どおり女二宮の元に通ううちに女二宮に惹かれていく。

薫はすくすくと育つ。自分には似ておらず、柏木の面影がある。

 

36 横笛

36尾形月耕・源氏物語五十四帖・横笛:plain

柏木の死から1年が経った。盛大な一周忌の法要が行われ、源氏は前の太政大臣におびただしい金を送る。朱雀院の住む近くで採れたタケノコが女三宮のもとに届いた。薫はよちよちタケノコまで這っていき、タケノコを歯がためがわりに口に近づけかぶりつこうとし、どんな仕草も愛くるしい。

夕霧は女二宮のもとを訪ね続ける。夕霧は琵琶を弾き、女二宮は曲の終わり際に琴をあわせた。帰り際、柏木の遺品である横笛を手渡される。家に戻れば妻の雲居の雁の子供たちも眠ってしまっており、夕霧の夢枕に柏木が立ち、「横笛を子孫に伝えたい」と告げる。

明石女御の三男、匂宮は紫の上が育てている。薫と匂宮を見比べながら夕霧は薫が柏木に似ていることに気づき、昨夜の女二宮の話をすると、未亡人相手に罪な行動は控えるようにと、自分のことは棚にあげた源氏のもの言いである。夕霧はさらにつづけ、源氏に柏木の夢枕の話をするが、源氏は取り合わない。夕霧はなおも、柏木は源氏の機嫌を損ねてしまったことを気にかけていたと続けるが、源氏は身に覚えがないとしらを切りとおす。

 

37 鈴虫

37尾形月耕・源氏物語五十四帖・鈴虫:plain

夏、源氏は女三宮のために仏堂を建立しようとの発案で仏像の開眼供養を執り行った。

尼姿の女三宮を見ていると、出家させるのはあまりに惜しかった、と悔やみ、秋、庭に鈴虫や松虫を放ち、虫の音を聞きながら女三宮と時を過ごすのだった。源氏は琴を奏で、女三宮は源氏のつまびく琴の音に聞き入る。

その夜は十五夜で、蛍兵部卿宮、夕霧をはじめとして公卿たちが集まる。こんな夜は柏木がいてくれれば、座は一段と華やかであったろうに、と源氏は柏木を懐かしむ。冷泉院からの使者があり、六条院に集まった者どもはそろって移動し、冷泉院のもとで宴はいつまでも続いた。

秋好中宮も出家し、母六条御息所の霊を慰めたいとの御意向である。源氏は中宮を訪ね、なにも急ぐことはない、徐々に準備を進めていけばよろしい、と語りかける。源氏にしろ、中宮にしろ、なまじ身分が高いばかりに、、思うように生きたいと願っても、しがらみが多く、すんなりと事は運ばないものだ。

 

38 夕霧

38尾形月耕・源氏物語五十四帖・夕霧:plain

夕霧は相変わらず女二宮の元に通い続けている。女二宮の母、一条御息所は娘がもし夕霧と結婚しても嫉妬深い雲居の雁がいる。行く末は多難であろう、と娘の身を案じながら亡くなってしまう。

御息所の法要は夕霧が采配し、朱雀院は女二宮・三宮と続けて出家ではあまりにも、との御意向である。夕霧は半ば強引に女二宮を自分の屋敷に連れ帰り、雲居の雁は態度を硬化させ、実家の太政大臣の家に帰ってしまった。

前の太政大臣からは亡き息子、柏木の妻が娘、雲居の雁の夫を奪った形になる、はなはだ困ったことだ、との文が届き、女二宮にしてみれば、もともと気の進まない結婚なのに、自分が悪者にされてしまい、居心地が悪いことこのうえない。

実家でふさぎこむ雲居の雁。夕霧の側室でもあった藤原惟光の娘、藤典侍より、正妻の雲居の雁を慰める文が届く。夕霧と雲居の雁の間には子どもは8人。藤典侍との間には4人の子がある。藤典侍の子のうち2人は花散里が引き取って育てている。

 

39 御法

39尾形月耕・源氏物語五十四帖・御法:plain

死期を悟った紫の上は出家を願うが、源氏は許さない。かわりに千部の法華経の経文を奉納することとし、法要の準備に采配を振るう。その有能ぶりを見、源氏はあらためて紫の上が比類なき女性であることに心打たれるのであった。
明石の上と花散里には和歌を送り、宿下がりした明石中宮(前明石女御)、まだ幼い匂宮との別れをすませ、秋になり、源氏と中宮が見守るなか、紫の上はみまかられた。

知らせを聞き、駆けつける夕霧。出家させてやれば、と悔やむ源氏。夕霧がたっての願いで見た紫の上の死に顔は、透き通るように美しい。

源氏は気を取り直し、紫の上の葬儀を執り行う。憔悴し、周りに支えられながら歩みゆく源氏の姿に、おいたわしい。参列者の新たな涙を誘うのであった。

もうこの世に未練はない。
前の太政大臣からも、秋好中宮からもお悔やみの便りが届く。こういったやりとりのできる人も数少なくなってしまった。

出家したい、と茫然自失のまま、毎日が過ぎていく。

 

40 幻

41尾形月耕・源氏物語五十四帖・幻:plain

新年を迎えても、源氏は年賀に訪れる客にも会おうともしない。帝の子として生まれ、准太政天皇にまで上りつめながら、妻に先立たれ憔悴しきって出家を願うだけとは、と自分で自分が情けなくもある。匂宮は紫の上の遺言だからと庭の紅梅と桜をじっと見つめ、桜の花が散らないよう、屏風で囲んでしまいましょう、との健気な言葉に、源氏もつい、微笑むのだった。女三宮を訪ね、花の話をするが、女三宮は出家した身には関係ないとそっけない。こんな時、紫の上なら…と涙ぐむ源氏。
続いて明石の上の元に向かう。変わらず趣深い女性である。源氏がなかなか出家できないとため息交じりに洩らせば、ためらう気持ちこそが大人の思慮というもの、と返す明石の上。

一周忌を過ぎても悲しみは癒えない。源氏は出家のため、周りの者に形見分けを始め、おびただしい数の女人からの手紙を処分する。もちろん、紫の上のものも。

師走、紫の上の法要の際、公の場に姿を見せた源氏は、かつて光源氏を称された頃よりも、光り輝くが如くのお姿であった。

 

 

41 雲隠

 

 

42 匂宮

42尾形月耕・源氏物語五十四帖・匂宮:plain

明石中宮と今上帝の子、三宮(匂宮)と、源氏と女三宮の子、薫。源氏亡きあと、源氏には遠く及ばないながらも、宮中きっての貴公子であることは間違いない。匂宮の姉、女一宮はに住み、兄の二宮夕霧の次女と結婚している。夕霧は右大臣に昇りつめ、長女は皇太子妃となった。花散里は二条院、女三宮は三条宮、女二宮は六条院で暮らしており、夕霧は三条院と六条院に交互に通う。明石の上の宮中での地位も安泰である。

薫は冷泉院の覚えもめでたく、院と御所と女三宮の住む三条宮を始終行き来し、端から見れば多忙だが何不自由ない身分である。しかし、知るともなく漏れた己の出生の秘密が気がかりである。

不思議にも薫の体からは良い香りがする。遠くに薫がいても香りでわかる。匂宮は負けじと身の回りのものに香を焚き込める。これが「薫」「匂宮」の名のいわれである。夕霧は娘を二人に嫁がせたい。二人とも、契る女人はあまたあるものの、本気の恋に落ちる女人には、まだ出会っていない。

 

43 紅梅

43尾形月耕・源氏物語五十四帖・紅梅:plain

亡くなった頭中将の二男で柏木の弟の紅梅大納言には亡き妻との間に大君と中の君の二人の娘がいる。蛍兵部卿宮に先立たれた亡き黒髭の娘の真木柱と再婚した。真木柱には連れ子の娘、宮の御方がおり、紅梅大納言との間には若君がいて、匂宮は大層可愛がっている。
紅梅大納言は大君を宮中に送り込む。若君は「(匂宮は)姉君とお近づきになりたいって言っていたよ」などと紅梅大納言に伝え、満更でもなし、中の君は匂宮に嫁がせたい。一方、宮の御方は内気で、義理の父の紅梅大納言も顔を見たことがない。しかし察するに風情ありげな女人と、紅梅大納言は宮の御方の様子をうかがう。
匂宮は大君が出仕し、少なからず面白くない。事あるごとに中の君の話を持ち出す紅梅大納言の思惑には気づいているが、宮の御方も気になる。手紙を送るが宮の御方は返事もしない。
匂宮は宇治八宮の娘にもご執心との噂である。宮の御方の母、真木柱は、浮名の多い匂宮は宮の御方の夫によろしいような、よろしくないような、複雑な心境である。

 

44 竹河

44尾形月耕・源氏物語五十四帖・竹河:plain

玉蔓は髭黒が早くに亡くなったため、女手一つで男の子3人、女の子2人の子どもを育てている。
息子は自分の力で立身出世してくれればいいが、問題は娘。宮中にあげることも考えないではなく、帝からは娘を入内させるよう、お言葉を賜っているものの、明石中宮と張り合うには、後ろ盾が母一人では心細い。冷泉院も娘を御所望だが自分の過去を思えば踏み切れず、夕霧の息子の蔵人少将も熱心に通ってくるが玉蔓の目から見ればいまひとつ。折を見て薫をどちらかの娘と娶せたい、との算段である。
薫は玉蔓の元を訪れ、琴を奏でる。亡き頭中将と柏木を思わせる音色に、玉蔓は涙を流し、一緒にいた蔵人少将は、何をするにも薫ばかりが目立つことが面白くない。
結局姉の大君は冷泉院に嫁ぎ、蔵人少将も、薫も、帝も落胆はなはだしい。
冷泉院は大君を大層御寵愛され、女の子と男の子が立て続けに生まれるものの、気苦労は絶えない。妹の中君は帝の元に出仕させた。

 

 【宇治十帖】

45 橋姫

45尾形月耕・源氏物語五十四帖・橋姫:plain

源氏の弟、八宮という、今は世間から忘れられた弟君があり、大君、中君の二人の姫がいる。八宮の妻は中君を産んで程なく、亡くなった。館は火事で燃えてしまい、仏道修行をしながら、今は宇治に移り住んでいる。
宇治に住む僧侶は度々八宮を訪れ、また冷泉院にも仏教の講義をしていた。冷泉院に仕える薫は八宮の評判を聞きつけ、宇治の八宮を訪れ、その教養の深さに惹かれ、度々通うようになる。
3年が過ぎ、ある日、八宮を訪ねるとあいにく留守であり、大君と中君の琵琶の音を聞き、姿を偶然垣間見てしまう。匂宮に2人の姫君の話をしてみたところ、興味深々である。薫は八宮に琴の話をして姫君に改めて演奏を頼むが、2人とも恥ずかしがるばかり。薫は八宮に姫君を身内と思い面倒を見るゆえ、今後の事は心配なさらぬように伝え、八宮は安心する。
八宮に仕える故柏木の乳母の娘、弁の君から自分の出生の秘密を知る薫。証拠の品として死期を悟った柏木が女三宮にあてた手紙を受け取る。

 

46 椎本

46尾形月耕・源氏物語五十四帖・椎本:plain

匂宮は夕霧が所有する宇治の山荘を訪れ、薫が出迎える。噂の姫君に会えるかもしれないと心躍る匂宮。八宮から薫に和歌が届き、匂宮が返歌を送った。匂宮はなおも山桜の枝を折って和歌を書いた紙を結び、届けさせた。中君が返事を書く。

八宮は修行中に亡くなり、薫が葬儀の段取りを行い、2人の姫君は薫に感謝する。匂宮もお悔やみの手紙を送る。

薫の長年にわたる父娘への心遣いを思えばと大君とてもわかってはいるのだが、雪の日、薫は大君を訪ね、大君も無下には扱えない。大君への気持ちは募りながらも、口をついて出たのは匂宮と中君の仲の取り持ちであった。ようやく大君に愛を告白するものの、大君は動じない。
匂宮と中君の歌のやり取りはまだ続いている。女三宮は六条院へ移ってきた。夕霧は娘を匂宮に嫁がせたいのだが、堅物の夕霧が舅になるのは気が進まない。

厚い夏の盛り、久しぶりに宇治を訪ねた薫は大君の姿をはっきりと見た。

 

47 総角

47尾形月耕・源氏物語五十四帖・総角:plain

八の宮の一周忌も過ぎ、薫はしげしげと大君を訪ね、なんとか口説き落とそうとするのだが、一生独り身で、父の供養がしたいとの大君の態度は変わらない。ただ、中君は世間並みに結婚させたいと思っている。薫と中君との縁組を考えていた。
そこで薫は一計を案じ、明石中宮の目を盗んで匂宮とともに宇治へ向かう。薫が中君を受け入れたと勘違いした大君は薫を館の中に通す。匂宮は中君への思いを遂げるが、薫は無理強いもできず、大君と夜通し語り合うばかりであった。
匂宮は中君の元に通いたいのだが、宇治は遠く、己の身分が邪魔して訪れは間遠である。大君は、後ろ盾がないゆえにこのような仕打ちを受けるのか、と憤り、心労のあまり病に伏してしまう。
薫が病床を訪ねるが、時既に遅く、大君はみまかられた。薫の傷心は傍目にも痛々しく、あの薫が心酔する女人は、いったいどんな方だったのだろうと世間は噂した。
匂宮は夕霧の娘、六の君との結婚が決まる。匂宮は、中君を二条院に迎える決心をした。

 

48 早蕨

48尾形月耕・源氏物語五十四帖・早蕨:plain

春が近づき、亡き父を偲び、ワラビとツクシが山の阿闍梨より中君に届く。
薫は大君を忘れられない。それでいて心の隅では、匂宮に中君を引合せなければなければよかった。中君を大君の形見と思い、娶ることもできたのに、と後悔せずにはいられない。心とは裏腹に、薫は中君の引越準備のため、かいがいしく尽くす。
中君は、一生を宇治で父や姉の供養とともに暮らすつもりでいたのに、知らない場所に移り住むことが不安でたまらない。牛車に乗り、中君は二条院に向かう。道のりは遠く、険しく、中君は匂宮の訪れが間遠だった理由を知る。
中君は無事二条院に入り、薫は、二人の距離は狭まったのに、これで中君は手の届かない人になってしまった。と安心するとともに自分の気持ちに区切りをつけようとするが、何でも相談するように、と中君に話して聞かせ、大君の思い出話をして去る薫に、
匂宮は薫の気持ちを察して中君に釘を刺す。夕霧は、娘の結婚を控え、匂宮が見知らぬ女を屋敷に入れたことを知り、大層面白くない。

 

49 宿木

49尾形月耕・源氏物語五十四帖・宿木:plain

薫は帝じきじきの仰せで女二宮と結婚することになる。匂宮も夕霧に根負けし、六の君との結婚を承知する。このことは程なく中君の耳にも届く。折悪しく中君は妊娠するが、匂宮はまだ気づかない。
中君の相談の手紙を受け取った薫は、早速かけつけ、親身になって話を聞いているうちに耐えられなくなり、いまこそ思いを遂げようとするが、妊娠を知り、引き下がる。匂宮は残り香で、薫の訪問を知る。薫は匂宮が中君をより一層近づけようとする姿を見て安堵する。ほどなく中君は若君を産んだ。

薫は婚礼を済ませ、女二宮を三条の宮に連れ帰った。夕霧は、源氏が皇女を娶ったのは晩年であるし、夕霧も紆余曲折があったのに、薫は強運だ、と言って聞かせる。

八宮にはもう一人娘がいた。大君に似ている、との話を中君から聞きつけ、薫はいてもたってもいられない。ついに覗き見たその女人は大君に生き写しであった。薫は思わず涙をこぼし、その日のちに、薫は浮舟と契る。

 

50 東屋

50尾形月耕・源氏物語五十四帖・東屋:plain

薫は浮舟を自分の館に迎え入れたいが、弁の君を間に立てて遠回しに言うものだから、浮舟の母、中将君は本気と取らなかった。
中将君には浮舟の他にも娘があり、始めは浮舟をと望んだ縁談を、財産目当てで義妹に乗り換えた仕打ちに、高貴な血筋を見下され、また家に居場所のない浮舟は、中将君とともには異母姉の中君を頼り、二条院に転がり込んだ。

二条院で匂宮や薫を見かけた中将君は、今までの自分たちのいた世界との違いを知る。薫は中君になおも迫るが、中君は浮舟が二条院にいることを伝え、事なきを得る。

浮舟を見かけた匂宮は浮舟を手籠めにしようとする。浮舟と中将君は二条院を出ざるを得ず、薫は行方不明の浮舟を探し続ける。

弁の君は遂に浮舟を見つけ出した。亡き父ゆかりの人の訪問は失意の浮舟にはひたすら懐かしく、また探し続けた薫の気持ちを知り、浮舟はただ驚くばかりであった。程なく薫も浮舟の隠れ家にたどり着き、薫は浮舟を宇治の館に連れ帰ることを決心する。

 

51 浮舟

51尾形月耕・源氏物語五十四帖・浮舟:plain

匂宮はかいま見た浮舟がなぜ館からいなくなってしまうのかがわからない。中君に問いただそうにも、浮舟のことは聞き出せるはずもない。中君に宇治からの文が届き、ピンときた匂宮が中を改めたところ、案の定浮舟からだった。浮舟と中君の関係を知らない匂宮は薫と中君との仲を疑わざるを得ない。
宇治に向かった匂宮は薫だと偽り、館に入り込み浮舟と契る。浮舟は驚くが抗えない。そして薫がいながら匂宮にも惹かれていく。

後ろ髪を引かれる思いで宇治を後にした匂宮。中君を見れば浮舟が思い出され、薫に会えば浮舟は私と薫、どちらを愛しているのだろう、との嫉妬が頭の中を渦巻く。

薫の従者が浮舟に手紙を届けたところ、知った顔の男が宇治にいた。後をつけると、匂宮の館に入っていった。との報告を受け、

薫は恋敵、匂宮に気付く。匂宮は手が早い。浮舟を宇治にかくまって安心していた自分の甘さを後悔する薫。薫からの文を受け取り、匂宮とのことがばれてしまったことを悟る浮舟。浮舟は二人の男のどちらも選ぶことができず、恐れおののくばかりで、もう死ぬしかないと思い詰める。

 

52 蜻蛉

52尾形月耕・源氏物語五十四帖・蜻蛉:plain

浮舟はそれっきり、消息を絶った。薫にも匂宮にも惹かれながらどちらも選べないと悩みぬいていた浮舟。宇治川に身を投げたのではと川を探すが、遺体は見つからない。

薫は大君といい浮舟といい、立て続けに宇治で愛する女性を失った、ひたすら自分の手抜かりを悔やむしかなく、匂宮もあまりのことに茫然自失であり、表向きは病気とするしかない。知らんぷりもできない、と薫は匂宮を見舞う。薫は浮舟のことを語りながら涙をこらえることができず、匂宮もまた、かける言葉がない。

匂宮は事情を知る女房を館に招き、薫は宇治に出向き、事の真相を知る。板挟みの浮舟の気持ちを察する2人は、改めて浮舟の哀れさを理解した。

浮舟の葬儀は内輪だけの質素なものだったが、四十九日の法要は盛大であった。事情を知った帝も、自分の娘である薫の正妻をはばかって浮舟を宇治に置いたばかりにこのようなことに、と見知らぬ女人を気の毒に思われ、母の中将君、義理の父も娘を失い、悲嘆にくれる。

 

53 手習

53尾形月耕・源氏物語五十四帖・手習:plain

浮舟は生きていた。横川の僧都が宇治で泣いている浮舟を見つけ、横川(滋賀県大津市)に連れ帰ったが、娘は素性も明かさず「私を川に投げ落として殺してくれ」と言うばかり。浮舟は尼にしてほしい、と事ある毎に頼むのだが、娘盛りにいかにも惜しい、と周りは耳を貸さない。
早速浮舟の美貌に求愛する男が現れるが、浮舟はかたくなに拒否し続ける。なおも出家を願い続ける浮舟に横川の僧都は根負けし、浮舟は髪を落とす。

横川の僧都は女一宮の病気平癒の加持祈祷を執り行っていたため、明石中宮に召される機会がり、事情を知った明石中宮は、あるいは浮舟か、とは思うものの、確証はない。

浮舟の一周忌の法要を終え、中宮から浮舟が生きているかもしれない、と聞かされる動揺する薫。中宮に、匂宮はこれを知っているのかと尋ねたところ、お二人に話したのではまた面倒なことになりましょう、とのお答えであった。

浮舟は法要を知り、薫が自分を忘れていないことを嬉しく思う。しかしこの姿を晒すことだけはするまい。と自分に誓うのだった。

 

54 夢浮橋

54尾形月耕・源氏物語五十四帖・夢浮橋:plain

薫は横川の僧都を訪ね、僧都に事情を語る。僧都はむざむざ浮舟を出家させてしまったことを後悔し。これまでのことを仔細に語った。浮舟に会いたい、と薫は頼むがかなわず、ならば代わりに文をと僧都に託した。

僧都は手紙を浮舟のいる尼寺に送る。しかし尼君がいくら促しても浮舟は返事を書かない。

浮舟の弟が薫の文を携え、浮舟のいる尼寺を訪れる。母は、みんなはどうしているのか聞きたい気持ちをこらえ、いや、私がここで生きていることは知られてはならぬ、と気を取り直し、手紙を受け取る。手紙には懐かしい文字で「全てを水に流して昔話がしたい」としたためられていた。涙をこぼしながらも、心当たりがないからと手紙を返すしかない浮舟。

あまりに失礼すぎると一緒の尼はとりなすが、浮舟は答えず、顔を伏せたまま。やむなく尼はありのままを薫に伝えてくれるようにと浮舟の弟に告げ、姉弟の対面はかなわなかった。薫は浮舟が生きているともいないとも、知ることはできなかった。